
補強の影が色濃く迷走。完投文化を守りつつ、進化する読売ジャイアンツの投手戦力
堀内恒夫、江川卓、斎藤雅樹などを輩出し、かつては先発完投を美学とする傾向のあった読売ジャイアンツも近年は分業化が進み、先発に引けを取らない優秀なリリーフ陣が試合を締めくくるようになった。今回は過去の球団の投手データを元にしながら、読売ジャイアンツの投手起用の変化や分業化の歴史を振り返ってみたい。※イラスト/vaguely

補強のツケが露呈した2005年、優勝の夢遠く
読売グループ内の人事異動によって、急遽2004年から監督に就任した堀内恒夫氏の2年目のシーズン。前年は259本塁打を放ったものの3位に終わったこともあり、2005年シーズンは3年ぶりの優勝を目指す年となった。しかし開幕カードを3連敗で終えた読売は、その後は一度も勝率5割を超えることのないまま迷走を続けていくことになる。
清原和博、ペタジーニ、ローズ、小久保裕紀らを軸とした史上最強打線を擁するも、年間186本塁打を放ちながら打線のつながりに欠け、下位に低迷。抑えとして期待されたミセリは、実力を発揮できず、わずか4試合で日本を去ることとなった。上原浩治、高橋尚成も勝ち星は伸ばせず、久保裕也や林昌範がリリーフとして奮闘したが、要求の高い巨人ファンの信頼を獲得するまでには至らなかった。上原が6完投、高橋が4完投、ベテランの工藤公康と横浜から移籍してきたマレン、ルーキーの野間口貴彦が1完投ずつを記録している事実が、リリーフに対する信頼の薄さを感じさせる。なお、この年のオフに清原は退団。成績不振の堀内監督に代わって、原辰徳監督が再登板を果たすことになる。1990年代中盤以降、毎年のように大型補強を行ってきたツケが出たようなシーズンとなった。
2015年、巨人投手陣の意地と野球賭博問題に揺れたシーズン
原辰徳監督は、2006年に再び監督に就任し、2015年で監督としての10年目を迎えた。前年にセ・リーグ3位となったものの、今シーズンはさらなる高みを目指し、チームは開幕から優勝を狙って戦った。しかし、シーズンを通して調子が上がらず、最終的にはヤクルトに振り切られて優勝を逃すこととなった。
エースの菅野智之は安定感を見せながらも、2桁勝利を挙げるものの、1つの負け越し。新外国人として加入したマイコラスは13勝を記録し、チームの勝利に貢献した。高木勇人も快投を続けたが、ベテランの内海哲也はわずか2勝にとどまり、杉内俊哉は6勝に終わり、若返りが必要であることを感じさせるシーズンとなった。
なお先発からリリーフへ転向した澤村拓一は先発時代は安定した投球が白星に結びつかない場面も少なからず見られたが、持ち味の速球を武器に60試合に登板し、7勝36セーブ、防御率1.32という素晴らしい成績を残し、チームのリリーフ陣を支えた。そして翌年には、セーブ王に輝くことになる。
完投数を見ると、エースの菅野が6完投(そのうち2完封)、マイコラスが4完投(うち2完封)、高木が1完投(うち1完封)を記録。マシソン、山口鉄也、澤村拓一らを控える中でも完投を目指す投手が多いのは、巨人軍のエースとしてのプライドと言えるのかもしれない。2015年9月には、巨人選手による野球賭博問題が発覚し、4選手に処分が言い渡されることに。この年限りで急遽現役を退くことになった高橋由伸新監督の元、再始動を図ることになった。
若手選手の台頭で復活を遂げた2024年
高橋由伸監督(2015〜18年)がチームを率いた後、原辰徳監督3次政権が発足。丸佳浩らの補強もあって2019、2020年と連覇を果たしたが、翌年は3位に。2022、2023年は4位に沈んだことを受けて退任した原監督に代わり、2024年は阿部慎之助が新指揮官に就任した。
若返りに成功したチームは前年日本一の阪神や勢いに乗る広島とのデッドヒートを振り切り、阿部監督は就任1年目でチームを優勝に導いた。巨人復活の鍵は、なんと言っても若手選手の成長が挙げられるだろう。野手ではキャリア初の全試合出場を成し遂げた吉川尚輝や2年目の門脇誠、浅野翔吾、中山礼都といった若手が台頭し、フレッシュなチームへと生まれ変わった。投手に目を向けると、2023年は悔しいシーズンを過ごした大勢が復帰して、29セーブの活躍。先発もエース菅野智之の復活や井上温大の独り立ちなど、明るい話題が多く、新生ジャイアンツを印象づける1年となった。しかしクライマックスシリーズでは、勢いに乗った横浜DeNAの足元をすくわれる形となった。
リリーフエース不在から進化する投手戦力
先発完投の文化が残り、1990年代後半から2000年台前半にかけてはリリーフエースの不在に苦しむ場面も見られた読売ジャイアンツ。しかし昨今では、リリーフ適正のある投手を獲得、育成するなど、時代に合わせたスタイルに変化させていることが感じ取れる。ただ、完投数や先発投手のイニング数を見ると、かつての“エースは完投を目指すべき”という美学や、調子の良い投手には長いイニングを任せる傾向も見られ、それらは球団の文化として根強いものであるようにも感じられるだろう。