2024年テニス界の印象に残った選手たち:努力と挑戦が生んだ感動の瞬間
2024年のテニス界は、数々のドラマと成長の年であった。怪我を乗り越え、かつての輝きを取り戻すべく戦うベテラン選手。新たな頂点を目指し、強さを証明し続けた若き選手。今年はオリンピックイヤーという特別な年でもあり、テニス界は例年以上に盛り上がった印象がある。選手たちの努力と挑戦が、2024年も新たな歴史を刻み、ファンに感動と興奮を届けた。今回は特に印象に残った選手たちの活躍について振り返りたい。※トップ画:出典/Getty Images
ラファエル・ナダル:テニス界のレジェンドとしての最後の闘志
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2024年のテニス界を語る上で、ラファエル・ナダルを外すことはできないだろう。2024年11月19日にスペインでコートを去った彼は、「クレー(赤土)の王者」として知られ、全仏オープンのシングルスは14度もの優勝を誇る。その偉業は史上最多といわれ、「ビッグ4」(ロジャー・フェデラー、ノバク・ジョコビッチ、アンディ・マリーそしてナダル)の一員として、4大大会で22回の優勝を果たしたレジェンドだ。
ナダルは最後まで若手選手たちに鋭いプレーと圧倒的な精神力を見せつけ、勝負強さを発揮し続けた。特に印象に残っているのが、2024年パリオリンピックでのナダルとジョコビッチの対戦だ。この「ビッグ4」同士の戦いは60回目の対決で、ジョコビッチが勝利した。第2セットの8ゲーム目、ラストに打ったナダルのフォアのクロスショットは圧巻だった。勝敗関係なく、ナダルは最後の最後まで闘志剥き出しで戦ってくれて、本当にかっこよかった。
アリーナ・サバレンカ:攻撃的プレースタイルで再び頂点に立つ
アリーナ・サバレンカ選手は今季、全豪オープンと全米オープンの2つのグランドスラムを制し、さらにWTA1000のシンシナティ・オープンと武漢オープンでもタイトルを獲得するなど、圧倒的な強さを発揮した。その結果、世界ランキング1位に返り咲き、WTA年間最優秀選手賞を受賞。今年はまさにトップレベルの実力を証明した年であったといえるだろう。
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サバレンカは高身長を活かした強力なサーブと攻撃的なプレースタイルが特徴だ。全豪オープンの決勝、ジェン・チンウェンとの対戦では、両者ともハードヒッターで激しいラリーが続いた。サバレンカは強力なサーブでエースを決め、相手の手が届かない位置へ鋭いストロークを打ち込むなど圧倒的なプレーを見せた。試合を決定づけたラストポイントのフォアのクロスショットは、本当に見事で気持ちよかった。
彼女の使用しているラケットはWilsonの「BLADE」なのだが、あのラケットであれほど力強く振ってプレーをできることに、同じラケットを使うユーザーとして憧れてしまう。
元々の印象は気性が少し荒そうな、感情をむき出しにしているシーンも何度か見てきたのだが、今年はその印象が少し変わった気がする。冷静さが精神的な強さを意味するわけではないと思うが、感情のコントロール術を得たように感じられた。
小田凱人:最年少で世界を制した若き才能
2024年パリパラリンピックで、車いすテニスシングルスの最年少金メダリストとなり、その名が世界中に広がった小田凱人選手。パリパラリンピックの決勝で勝利を収めた瞬間、小田が車いすのタイヤを外しコートに寝転んだ姿は、多くの人々の記憶に強く残っているのではないだろうか。
2023年にはなんと17歳で世界ランキング1位にも輝き、その実力を証明し続けている小田だが、自身の試合を「ショー」と表現する。彼は単なる選手にとどまらず、エンターテイナーとしても魅力を放ち、コートの入場の際から観客を大いに盛り上げる。試合での力強いサーブやストロークはもちろん、積極的に前へ出てボレーを決めにいく攻めの姿勢が、見るものを引きつけてやまない。個人的に印象に残っているのは、サーブを打つ前に車いすを位置にセットする、タイヤを止める瞬間だ。その一瞬に見せる小田の集中力と繊細さ。あの瞬間に感じる静かな強さが、彼の魅力を一層深めていると思う。
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伊藤あおい:テクニックで勝負し、テニス界に新風を巻き起こす
私は伊藤あおい選手のことを「突如現れた選手」だと思っていたが、実際はそうではないらしい。私が彼女の存在を知ったのは、2024年のジャパンオープンの時だ。普段、激しいプレースタイルの選手ばかりを観戦していることもあり、彼女の試合展開は斬新で衝撃だった。伊藤はフォアハンドのスライスや鋭いバックハンド、ロブ、そしてネットプレーなど、独自のプレースタイルを展開していく。見ていて飽きない、面白いテニスをしているとテニスヲタクの私は感じるのだが、その中でも印象に残っているのが、フォアのスライスショットだ。スライスショットとは、ボールの進行方向とは逆向きの回転をかける打ち方なのだが、このショットを打たれると相手はペースを乱される。数々の選手たちが彼女のスライスにリズムを崩され、ミスを重ねていた。伊藤は自身に体力がないことを認めており、パワーではなくテクニックで勝負しているそうだ。世界ランキングは今季のスタート時は383位だったが、最終的には自己最高位の126位で終えた。日本勢では3番手となった。彼女の試合をはじめ、会見やコメントを通して感じるのは、良い意味で力が抜けている。きっとテニス界に新しい風を吹かせてくれるだろう。
2024年のテニス界は、ベテラン選手の引退や若手選手の快進撃、そして新たな才能の台頭が印象的な年だった。各選手が怪我を乗り越え、挑戦を続けた結果、感動的な瞬間が多く生まれ、来年のテニス界がますます楽しみな一年となった。
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