「自分のことが好きになれた1年」“加藤美優”が競技生活休養で再確認した“卓球人”としての存在価値
卓球女子の加藤美優は東京都武蔵野市出身。1999年生まれの加藤はジュニア時代から将来を嘱望されて国内外の大会で活躍し、2017年、2019年には世界選手権に出場するなど、一学年下の伊藤美誠、平野美宇らとともに“黄金世代”と呼ばれ、卓球界をけん引してきた。今回そんな加藤にキングギア がインタビューを実施。競技活動を休止中の現在の生活ぶりや今の心境について聞いた。※トップ画像撮影/松川李香(ヒゲ企画)

競技生活から離れて設けた充電期間
加藤はパリ五輪に向けた最終選考大会となっていた2024年1月の全日本卓球選手権を前に、競技生活の休養を決断。長年卓球選手として最前線で戦ってきたなか、心身のリフレッシュを取る時間を設けることに決めた。国内外の大会を掛け持ちし、タイトなスケジュールをこなしてきた加藤。選手として激しい競争にさらされ続けるなかで、わずかなオフ期間でもほかの選手たちと比較して、後ろめたさを感じることがあった。
「休みは週1日という感じで、(海外の大会などで)移動があったら取れない。1週間で1日の休みですら罪悪感を感じるような感覚があって、『もしかしたら自分が休む週1回の間にみんなはもっと練習しているかもしれない』とか、『週1日も休んでいいのかな?』と思っていました」
充電期間を設けた加藤は、趣味のひとつである海外旅行に行くなどリフレッシュする時間を取った一方で、資格取得にも挑戦した。宅地建物士(宅建士)の資格を取得した加藤だが、「自らが掲げた目標に対して取り組んでいく」という姿勢は、卓球選手としての自身にも通じるものがあったという。
「正直勉強は好きではなかったんですけど、自分にそれが必要だと言われたら卓球と同じように頑張りました。『やるために必要なこと』は頑張れるタイプではあります」
解説者デビューには「遊んでいるくらい楽しい」
競技選手としてはラケットを握らない選択をした加藤だが、これまでとは違う形で卓球界には貢献している。卓球教室やイベントに参加し、所属先である吉祥寺卓球倶楽部では個人レッスンも行っている。“卓球人・加藤美優”としての自らの価値を再確認し、異なる形で卓球に携わることに対しては充実感を感じている。
「やっぱり楽しい。自分はいつも周りと比べられていて、『いくらでも自分の代わりはいるのにな』とか思ってしまっていたけれど、(イベントなどに)行くとすごく喜んでくれて、『自分ってもしかしたら強い選手だったのかもしれない?』とその時に初めて気がつきました(笑)」
さらに、世界の強豪選手が参加する国際大会『サウジスマッシュ2024』では解説者としてもデビュー。これまで戦ってきた選手たちを解説という立場で見守りつつ、視聴者へ卓球を届ける仕事に対しても喜びや新たな発見があったという。
「解説はプライベートで遊んでいるくらいの楽しさがありました(笑)今まで私が試合をしていた相手の解説をするのは不思議な感じがしましたし、選手として一番近い立場で解説ができる。上手く伝えられるんじゃないかなとは思いました。自分が知っている話をできたし、やりがいも感じましたね」
変わらずに抱く卓球界への想い
自分の時間を過ごしつつも、卓球自体を否定する気持ちは「全くなかった」という加藤。競技生活で休養期間を設けたことで、激しい代表争いにさらされていた当時と比べて心境に変化はあったのか。一度コートから離れたことで、自分自身や周りの状況も見つめ直す時間や気持ちの余裕が生まれてきたと語る。
「当時は自分のことが大嫌いで、『自分はなんでこんなにできないんだろう?』とか、『自分は全然意味がない存在なのかもしれない』と思っていたんですが、そんなことはない。冷静になって気がついたし、自分のことが好きになれた1年でした」
そんな加藤だが、トップ選手として戦ってきた自らの経験を還元することには興味を抱いている。女子卓球界は次々と世界的な選手が生まれ、激しい代表争いが続いている。2度の世界選手権出場歴を誇り、ジュニア時代から世界の舞台を経験してきた加藤にとっても、日本代表という場所には特別な想いがある。
「コーチとして日本代表を支えることには興味があります。休業するまで自分の人生のほとんどを代表選手として過ごしてきたので、日の丸をつけて頑張ることはやりがいがあることだと思いますし、興味を持っています」黄金世代として卓球女子を支えてきたひとりである加藤。競技生活からはいったん休養し、充電期間をとっているなかでもイベント参加や解説者など、新たな一面を見せながら卓球界に貢献している。「力を抜いて生きていきたいタイプ」だと語った加藤。自分らしさを大切にしながら人生の針を進めていく。
加藤美優(かとう・みゆ)
1999年4月14日生まれ、東京都武蔵野市出身。父の影響で6歳から本格的に卓球を始める。2006年に全日本選手権大会 バンビの部 ベスト8、2012年1月の全日本卓球選手権大会女子シングルスでベスト32(5回戦)に進出し、当時史上最年少記録を確立。2016年に世界ジュニア卓球選手権のメンバーに選出され、団体で優勝、女子シングルスで銅メダル、ダブルスでは早田ひなとのペアで銀メダルを獲得。2019年世界選手権ブダペスト大会ではベスト8を記録した。2020年コロナ禍の中で行われたTリーグでは、シングルス13勝をあげ、後期MVPに輝いた。
Hair&make:Anri Toyomori (PUENTE.Inc)
Photo:Rika Matsukawa