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バスケットから女子代表、そしてエディー・ジョーンズ氏へ―“挑戦を続ける”スポーツ通訳・佐々木真理絵がいま届けたい思い

バスケットボール男子チームの経験を積み重ねてきた佐々木真理絵さんが、女子代表チームに初めて挑んだのは、東京オリンピック後の2022年。男子チームとは文化や考え方が異なる現場に戸惑いながらも、海外遠征や国際試合に向けた調整役として奮闘した。選手たちの姿から学んだ「切り替え力」や、エディー・ジョーンズ氏との新たな挑戦を通じて得た学び。スポーツ通訳としての現在地と、次世代に向けたメッセージをお届けする。※トップ画像提供/本人(佐々木真理絵)

상이케다 텟페이 | 2025/01/03

バスケットボール女子代表での経験、男子チームとの違い

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イラスト/vaguely

――バスケットボール女子代表に2022年5月に就任されたと思うんですが、このチーム、特にオリンピックで銀メダルを獲得した後に現場に入られていますよね。

正直なところ、召集されるまでは女子バスケをほとんど見たことがありませんでした。男子バスケにはずっと携わり、Bリーグの黎明期や節目の試合を経験してきましたが、女子バスケとは無縁だったんです。代表に呼ばれてから、ようやく選手の名前を覚え始めたというのが正直なところです。

男子チームと比べて、女子チームの文化や考え方の違いに戸惑うこともありました。女子チームに長期間関わるのは初めてだったので、これまでの経験とのギャップに驚く場面も多かったです。

――具体的には、どういった点で戸惑いを感じましたか?

私の主な業務はチームマネージャーとしての調整役でした。戦術や技術面での負担は少なく、むしろ協会とチームの間に立つ役割が大きく、調整ややり取りに苦労することが多かったです。

特に海外遠征では、全ての窓口として機能しなければならず、国際試合に向けた準備が大変でした。これは女子チーム特有のものではなく、国際試合そのものの複雑さが原因で、業務量の多さが一番の負担だったと感じます。

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誰にも相談できない悩み、それでも支えてくれた仲間たち

――佐々木さんのようなポジションの方は、仕事の悩みや困ったことがあったとき、どのように相談されるのでしょうか?

基本的に相談できる人はいないですね。仕事柄、チームの重要な情報が漏れるリスクがあるので、気軽に相談できる環境ではありません。

ただ、女子代表にいた時には、男子代表や3人制バスケのマネージャーなど、同じ立場で国際試合や協会の事情を理解している方々がいたのが救いでした。

特に男子代表のマネージャーさんは国際試合の経験が豊富で、段取りや手続きについて具体的なアドバイスをくれたり、必要な相談先を教えてくれるなど、大変助けられました。

最高の瞬間は「関係が続くこと」

――スポーツ通訳業務をやっていて、一番「最高だ」と感じる瞬間や、充実感を得るのはどんなときですか?

正直、それはあまりないんです。よく聞かれる質問なんですけど、私は通訳という仕事において、ラクだとか、達成感がすぐ得られることは少ないですね。そもそも、自分の英語力は他の通訳者さんに比べて劣っていると思っていて、日々それを維持するだけでも苦労しています。

業務中は常に緊張感があって、言葉選びに悩むことも多いですし、悩む暇もなく進めなければならない場面もあるので、『最高』と思える瞬間はなかなかありません。

――それでも、何か心に残るエピソードや感動する場面はありますか?

業務そのものよりも、例えば久しぶりに担当した選手やコーチと再会した時が特に印象に残ります。当時はお互い厳しい状況で苦労していましたが、それぞれが今の道で頑張っている姿を見ると、本当に嬉しい気持ちになります。

中でも、パナソニックパンサーズ(現・大阪ブルテオン)のブラジル人コーチとの2年間は特に記憶に残っています。常に良い関係ばかりではありませんでしたが、苦しい時期を支え合った経験があるからこそ、再会すると当時の頑張りを思い出し、『あの時やってよかった』と思える瞬間が最高の充実感です。

エディー・ジョーンズ氏との仕事が教えてくれたこと

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イラスト/vaguely

 ――ここ最近の大きなトピックスはありますか?

実はスポーツ通訳としての肩書きは今もありますが、実際には通訳業務をあまりしていないことも多いんです。現在はラグビー男子日本代表のヘッドコーチ、エディー・ジョーンズさんのパーソナルアシスタントというポジションでお仕事をしています。

彼のサポート業務全般を担当しているので、通訳以外の仕事がほとんどですね。これまで一生懸命英語を勉強してきたおかげで、通訳という枠を超えて、ラグビーの現場に携わる仕事ができている。英語を武器に、想像もしなかったようなポジションを任されることがあるんだと実感しています。」

――エディー・ジョーンズさんとのお仕事について彼は人格者だという話をよく聞きます。実際に接してみてどう感じていますか?

10月からエディーさんとお仕事をご一緒させていただいています。主にリモートでのやり取りが中心ですが、エディーさんがコミュニケーションを非常に大切にされる方だと強く感じています。仕事の進捗や必要事項を細かくチェックしてくださり、頻繁にキャッチアップミーティングを設けるなど、密な連携を図る姿勢が印象的です。競技やヘッドコーチによってチームの作り方はさまざまですが、エディーさんのアプローチからも多くの刺激を受けています。

――フリーランスとして、仕事と休みのバランスはどう取っていますか?

スポーツ業界では、完全にオフの日を取るのは難しいですね。拘束される予定がなくても、事務作業やメール対応、資料作成など、何かしらやることがあります。ただ、私は仕事が好きなので、完全に『休みたい!』と思うことはあまりありません。それがこの働き方を続けられる理由かもしれません。

とはいえ、次世代の働き方を考えると、私たちのように休みなく働くことが正解ではないと思います。人材不足を解消するためにも、プライベートの時間を確保できる仕組みを整えることが大切だと感じています。

スポーツ通訳の未来を見据えて - 受け入れ体制と次世代育成

――スポーツ通訳のお仕事で甘いも苦いも経験されてきたと思いますが、次世代や若い人たちにこの仕事への憧れや興味を持ってほしいと思われることはありますか?

そうですね。この仕事は決して甘いものではないというのがまず第一にあります。ただ、最近では若い方や一度別の仕事を経験した方から『スポーツと英語を使った仕事がしたい』という相談を受けることが増えています。そういった人たちに向けて、私は単に憧れてほしいというよりも、現実的なサポートをしていきたいという思いが強いです。

――通訳の目線から見る、今のスポーツ業界で感じる課題について教えてください。

通訳不足が深刻な競技が多いですね。バレー、バスケ、ラグビー、野球など、外国人選手やスタッフがいるチームは特にそうです。ただ、私一人でそのすべてを解消するのは不可能です。だからこそ、次世代の人材を育て、コミュニティを作って繋げる活動をしています。

――具体的にはどのような活動をされているのですか?

私は興味を持つ人にチームを紹介したり、育成の機会を提供しています。また、チームには「経験が浅い人でも受け入れる体制の整備」を働きかけています。

単に通訳者を増やすのではなく、スポーツ界全体の英語リテラシーを向上させ、外国人選手の文化を理解する仕組みが必要だと感じています。

実際に、外国人選手が日常生活で困ったり、チーム内で文化や英語への理解が不足してスムーズなコミュニケーションが取れない場面を見てきました。こうした課題を解決するには、通訳者だけでなく、受け入れ体制そのものを変えることが不可欠です。

英語が広げるキャリアの可能性

――スポーツ業界を目指す人に伝えたいことはありますか?

英語をぜひ勉強してほしいです。通訳だけでなく、マネージャーやトレーナー、アナリスト、コーチなど、さまざまなポジションで英語は大きな武器になります。英語ができることで新しいチャンスを掴む可能性が広がるので、ぜひ取り組んでみてください。」

――具体的にはどのような勉強法がおすすめですか?

英語の習得には時間がかかるので、今からでも1日1単語ずつ覚えるなど、小さな一歩を積み重ねてほしいです。それは未来の自分への投資になります。専門学校で講師をしていると、バスケチームを目指す学生たちの熱意を感じる一方、英語力が足りないケースも多いと感じます。

英語ができなくても道はありますが、習得すれば掴めるチャンスが確実に増えます。少しずつでも努力を始めて、自分の可能性を広げてほしいですね。


佐々木真理絵(ささき・まりえ)

大学卒業後、一般企業に勤務したのち、2013年に日本プロバスケットボールリーグ・大阪エヴェッサにチームマネージャー兼通訳として加入。その後、京都ハンナリーズで2シーズンを過ごし、男子バレーボールチームのパナソニックパンサーズ(現・大阪ブルテオン)では2シーズン通訳を務める。2022年には女子バスケットボール日本代表のマネージャーとしてW杯にも帯同。サッカーやスキーなど競技の幅を広げながら、現在はラグビー男子日本代表でヘッドコーチのパーソナルアシスタントを務めている。