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フェンシングを疑似体験できる“ギア”「スマートフェンシング」の可能性ー【剣に魅せられてーフェンシングの世界を解き明かす】

パリ五輪でのメダルラッシュにより注目を集めているフェンシング。「ちょっとやってみたい」という声も増えてきている。その需要を満たすべく普及の現場で活躍しているツール「スマートフェンシング(大日本印刷株式会社の登録商標)」について触れていく。※トップ画像:©スマートフェンシング協会

Icon %e5%ae%a3%e6%9d%90 %e5%ae%87%e5%b1%b1 1 宇山 賢 | 2024/12/19

フェンシングを体験する従来のハードルの高さ

実際の競技で使用される剣は金属製のため、安全を確保する防具が必須だ。金属製のマスクに加えて剣の突きに耐えうるユニフォームを着用するのだが、このスタイルは体験教室やフリーの体験会には適さない。なぜかというと体験者全員分の防具を用意することは容易ではなく、また借りるにしてもクラブや部活動のある学校からかき集める必要があるからだ。さらに夏場は防具を着用するだけで汗だくになってしまって体験どころではなくなってしまうのだ。特にその傾向は子どもたちに顕著で、フェンシング体験をする前にすでに苦しい表情を浮かべる子どもたちをよく目にしてきた。

もちろんこうした“課題”は日本の現場だけではなく世界共通で、だからこそ世界的にこの体験ハードルを下げるべく、フェンシング用品メーカーからこの状況を解決できるようなフェンシング体験ツールが発売されてきたわけだ。その多くは剣をプラスチック製にしたもので、剣の先端に緩衝用のゴムをつけることでユニフォームを着ずともフェンシング体験できるような仕様になっていた。しかし“フェンシング”のように判定システムが搭載されていないことから、対戦をしてもどっちが先に突いたかを目視で判断するしかなく、体験者が成功体験を実感しにくい状態だった。

多くのハードルを解消するスマートフェンシングとは

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画像提供/©スマートフェンシング協会

オリンピック東京2020大会を経て、この状況が一変した。大日本印刷株式会社(以下、DNP)が東京2020スポンサーシッププログラムに契約したことがきっかけでスマートフェンシングが開発されたのだ。

このスマートフェンシング、構造はとてもシンプルなのに画期的なのだ。「誰でも安全、そして簡単にフェンシングを疑似体験できる」と謳うこのツールの内訳は、センサーを搭載した柔軟性を備える剣、有効部位となるジャケット、目を守るためのゴーグル、そして判定用アプリケーション。アプリケーションはスマホやタブレット端末にインストールして使用するもので、すでにインストールされた端末ごとレンタルできる。

剣の先端にセンサーが搭載されていて、ジャケットに触れるとその”時間情報”がアプリに送信されるという仕組み。スポーツのデジタル(バーチャル)化という点でも新規性を感じられる。国内でも同様に剣を用いたデジタルスポーツはいくつか存在するが、その多くは剣の刃の部分(側面)を身体に当てるもので、先端の接触を識別してデータ活用できているものはないのではないだろうか。

スマートフェンシングは剣の先端のみが反応する仕組みのため剣を振り回しても得点することができず、勝つためには剣を前後に動かし「突く」動作を誘うように設計されている。剣の固さも安全を保ちつつ競技の技術を再現できるバランスに調整されており、五輪メダリストや日本代表選手などと同条件で戦うことも可能。実際、彼らと“剣を交える”イベントも行われている。

日本フェンシング協会も積極的に活用

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画像提供/©スマートフェンシング協会

日本国内におけるフェンシングの中央競技団体“日本フェンシング協会”、このような競技(フェンシング)普及活動の必要性を認識していて、この”スマートフェンシング”を積極的に活用している。

2024年9月に開催された全日本選手権ではフェンシング体験ブースが設置され、パリ五輪の熱に誘われ初めてフェンシングを見にきた人たちが積極的に参加していた。また同協会が毎年行っている学校訪問事業(渋谷区、千葉県など)においても、このツールのおかげで参加者全員が限られた時間の中でもフェンシングを体験できる形式を継続できている。筆者も講師としてこうした事業によく携わっているが、参加者の満足度は高いと感じる。

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画像提供/©スマートフェンシング協会

2008年北京五輪において日本勢が初めてメダルを獲得して以来、少しずつその認知を拡大してきた“フェンシング”。パリ五輪では史上初の5個とメダルを獲得し、レスリングなどと並ぶ、次世代の“日本のお家芸”としてのイメージを広めたように思う。私自身、最近メディアやSNSなどで選手やその実績を目にすることが増え、「フェンシング」というスポーツが多くの国民に認知されているなとも感じている。

しかしリアルで試合を観戦したり、ましてや体験したことがある人はまだまだ少ない。「みんなやったことないから、みんなでやってみよう」という流れを作ることができれば積極的な体験を促すことができるかもしれないと思う。

今後フェンシングをさらに広めていくために

さらなるフェンシング普及に向けて、2024年4月にスマートフェンシング協会が設立された。筆者も理事として参画し、多くの場所で体験できる場を提供してきた。

しかし“フェンシング体験”はその多くが初心者向けにとどまり、「継続性」に着眼したイベントは少ないのが現状だ。ただ継続というセカンドアクションを目的としたイベントや取り組みを実施していくためには、レギュレーションを整備する必要がある。課題は安全性とクオリティの共存だ。体験とはいえやはり身体を動かす以上、事故などのリスクが存在する。こうしたリスクをできる限り取り除き、かつ全ての取り組み内容が同じクオリティで運営されることが求められる。

それを実現するためには指導者プログラムの開発や講習会の実施、各都道府県フェンシング協会やクラブとの連携など目下やるべきことがたくさんあり、ゆえに初期のマネジメントを丁寧に行うことが今後のスマートフェンシングの拡大、ひいてはフェンシングの競技者拡大につながってくると私は考えている。


今年のオリンピックでさらに注目を集めたフェンシング。この勢いを保ち、次の4年後のオリンピックまで繋いでいかなければならない。しかし国内スポーツは変革のときを迎えており、部活動の地域移行や特定競技の全中(全国中学校選手権)廃止など、今後行政に依存したまま競技を行うことが難しくなっているのもまた現実。「人々の運動習慣を支えるスポーツのひとつとして、フェンシングを選んでもらうためにどうするか」ーフェンシングの関係者が一丸となって協力し、取り組まなくてはならない時がきていると思う。

その課題に取り組み、現状を変えていく手段のひとつとして、スマートフェンシングが担えるところがあるはず。元・競技者の立場から今後も考え、広げていきたいと思う。みなさんもぜひ一度体験してみてほしい。