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誇りをかけた決闘!気弱&運動音痴のフェンシング部員が才能を花開かせる『DUEL!』

2024年の夏、世界が熱狂したパリオリンピック。さまざまな競技で自国選手の活躍を目にしたり、息をのむ試合展開に興奮する日々が続いた。普段は目にすることの少ないスポーツにふれる機会になったという読者もいるかもしれない。日本勢の躍進が印象的だったフェンシングもそういったスポーツのひとつではないだろうか。フェンシングの面白さや奥深さはどのようなところにあるのか、高校女子フェンシング部を舞台とした『DUEL!』(藍井彬)を取り上げて探ってみよう。※トップ画像/筆者撮影

Icon 20190710 dscf0362 middle 藤堂真衣 | 2024/11/25

主人公・みのりは帰国子女の“アリス”に憧れてフェンシング部へ

『DUEL!』は2015年から2017年に「ヤングガンガン(スクウェア・エニックス)」で連載された作品。主人公の日向みのりは「白糸台高校」に通う高校1年生。気が弱くナメられやすい性格で、ストーリー開始時点ですでに典型的なイジメにあっている。つらいと感じながらも、立ち向かうこともできずにヘラヘラと笑うことで恐怖から逃げている少女だ。

そんなみのりの鬱々とした日々を変えることになるのが、フランスからやって来た帰国子女の桃瀬アリス。気の強いアリスによってイジメの現場から助けられたことを契機として、みのりは「自分も強くなれるかな」とアリスに憧れを抱き、アリスが向き合うフェンシングというスポーツに興味を持ち、フェンシング部の門を叩く。

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イラストはイメージです(イラスト/vaguely)

アリスはフェンシングでユース五輪のフランス代表として活躍し、将来有望な「次世代の三銃士」と目された実力の持ち主で、日本の高校フェンシング部に敵はいないと感じており、他の部員との関係性も最悪の状態だった。

インターハイ予選落ちの白糸台を今年こそ全国へ…。その思いを胸に部をまとめる主将や部員など、フェンシングへの思い入れも異なる面々とともに、ド素人のみのりは「逃げたくない」「強くなりたい」という思いをもって、フェンシング部員としての日々をスタートする。

キャラクター一人ひとりが強さや弱さをもち、成長していく

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赤い部分が有効面(画像作成/これ松えむ)

フェンシングには「フルーレ」「エペ」「サーブル」の3種目があり、それぞれ微妙にルールが異なる。「DUEL!」で描かれるのは「エペ」で、頭からつま先まで全身を有効面とし、どこに剣先が当たってもポイントとなる種目だ。

なお今年開催されたパリオリンピックでは、「エペ」で日本男子個人は金メダル、男子団体で銀メダルを獲得している。

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さらに「フルーレ」「サーブル」でもそれぞれメダルを獲得する大快挙となったのは記憶に新しいのではないだろうか。

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少し脱線したが話を戻そう。「フルーレ」や「サーブル」のようにアタック権(先に攻撃を仕掛けた側に得点権がある)のルールはなく、どちらがいつ攻撃をしても得点に直結する。シンプルでありながら、一瞬一瞬に極めて高度な戦略思考と、それに基づく機敏な動作が展開されている。初めてフェンシングを目にしたとき、判定が機械によって行われることに驚いたことがあるかもしれないが、それだけスピーディーなスポーツであるともいえる。

白糸台高校のメンバーは、あらゆる面において卓越した技術をもつアリスだけでなく、パワータイプの七瀬あゆみ、細かなテクニックが強みの高田など、長所と短所をあわせ持つ成長途中の高校生が多く登場する。みのりはすべてにおいて「下の下」といったところで、新入部員の洗礼である「道場の雑巾がけ」からトレーニングを開始する。

また、スポーツ漫画らしくライバル校も登場する。インターハイを目指す白糸台のライバルは、インターハイ予選の優勝常連校・聖蹟桜ヶ丘学園をはじめ、白糸台に負けず劣らず個性も強さも多彩なキャラクターたち。パワータイプとスピードタイプ、戦略タイプと天才タイプなど、それぞれの長所や弱点を描きながら、フェンサーとしての挫折や成長を描いていく。

白糸台の2年生エース・七瀬は元ヤンキーという過去を持ち、主将の小梅に拾われて「必ず小梅さんとともにインターハイに」という悲願を抱えている。パワーに長け、波に乗ると非常に強いものの、ケンカっぱやい性格のために冷静さに欠け、相手の術中にハマって惨敗してしまうこともある。自分の弱点を突きつけられながらも、それをどのように克服し、強さへと変えていくか。それも『DUEL!』の見どころだ。

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イラストはイメージです(イラスト/vaguely)

みのりにはある隠された「才能」が。覚醒シーンは爽快!

みのりは弱い。フェンシングを始めたばかりの素人なうえに、元々運動も苦手なタイプなので当たり前といえば当たり前だ。そんなみのりだが、1話の冒頭で五輪選手としてアリスと相まみえる未来の描写があるのは不思議だ。

みのりには、ごく限られた選手にしかない「才能」がある。フランスでアリスと切磋琢磨してきた選手や、聖蹟桜ヶ丘のトップ選手など、ごく限られたフェンサーにしか与えられない並外れた集中力だ。何気ない日常の場面で、アリスはその片鱗を目にすることになる。

フェンシング部としての活動を通してさまざまな選手と出会い、彼女たちと剣を交えることでみのり自身も自分のその才能に気づき始める。負けられない試合、絶対に勝ちたい試合。そんなぎりぎりの局面で、みのりはその才能を少しずつ開花させていく。普段の気の弱い表情からは打って変わって、強豪校の主将ですら畏怖を抱くようなみのりの覚醒は、この作品の一番の面白さかもしれない。

フェンシングはスポーツだ。しかし、そのルーツは騎士たちが誇りをかけて行った「決闘」にあるともいわれている。マスクやプロテクターがなかったら…。振るう剣が本物だったら…。一秒や一瞬の緊迫した戦いが繰り広げられるフェンシング。今回の作品で興味を持っていただけたなら、ぜひ今年のパリオリンピックで大快挙を見せた日本勢の活躍を振り返ってみてほしい。

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パリオリンピック フェンシング男子エペ団体 日本vsハンガリー決勝の様子(出典/Getty Images)

Illustration by Vaguely