スクラムハーフとスタンドオフに挑んだ岸岡智樹(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)の苦悩と成長(前編)
昨シーズンは本来のポジションであるスタンドオフだけ(SO)ではなく、スクラムやラックからボールを出してパスを出す役割が求められるスクラムハーフ(SH)として起用され、慣れないポジションながらも安定したプレーでチームに貢献した。再びスタンドオフに専念することとなった今シーズン、岸岡智樹選手はさらなる飛躍を目指す。※トップ写真撮影/松川李香
――昨シーズン(2023-2024年)の開幕前に、ルディケヘッドコーチ(HC)からスクラムハーフの打診を受けたそうですね。提案をされた時に、岸岡選手はどう思いましたか?
ルディケHCは選手の意見を大切にしてくださる聞き方をしてくださったのですが、正直に言ってネガティブなイメージを拭い去ることはできませんでした。
ルディケHCは「チームは君のことをスタンドオフだと認識しているから、まずは君の意見が大事だ」と言ってくださったので、僕は「スタンドオフとしてやりたいという思いが大前提にありますが、一昨年(2022-2023)は試合に出られませんでした。試合に出ることが何よりも大切なので、『もし試合に出られるのなら、スクラムハーフとして試合に出られるように練習します』」と昨シーズンの開幕前に回答をしました。
撮影/松川李香(ヒゲ企画)
――スクラムハーフは過去に経験したことはありましたか?
高校2年生のときに半年ぐらい背番号9を着て試合出たことがありますが、それだけです。
――スクラムハーフとスタンドオフはゲームで見るところが違いますよね。
そうですね。試合に出られるうれしさはありますけれども、レギュラーとリザーブとして試合から途中に入ってくるメンバーとは、全然役割が違う。
僕はレギュラー選手ではありませんでしたから、僕がスクラムハーフで求められているものは「及第点出すっていうレベルに過ぎないな」と思って。
俯瞰的な僕は「本職ではなく、助っ人のような立場で、おそらく僕に対する期待値もそこまで高くないだろう」と分析しました。
ですから「これまでにスタンドオフとして培ってきたスキルや経験をスクラムハーフに活かしたい」と考えるのが一般的だと思うのですが、一旦そのような考えは横に置いて「周りも守ってくれる。とにかく僕に求められていることをやろう」と気持ちを切り替えました。
撮影/松川李香(ヒゲ企画)
――普段やらないスクラムハーフのためにどのような準備をされたのですか?
去年のプレシーズンはスタンドオフで準備をしていて、練習や試合でもすごく調子が良かった。チームは優勝したけれども、自分は試合に出られなかった不甲斐ないシーズンを終えて、次のシーズンに向けて気持ちは傾いている中で、ルディケHCから「スクラムハーフをやるかどうか」を尋ねられましたから、正直に言って戸惑う部分はありました。
ましてやスクラムハーフは専門性の高いポジションですから、開幕に向けて残り時間が少ない中で、僕にできることも限られていた。しかもリザーブとして起用されるスクラムハーフですから、もし試合中にスタンドオフの選手が怪我をしたら、僕が代わりに出ないといけなくなる可能性もある。スクラムハーフとスタンドオフの役割の違いを考えながら、頭を切り替えて練習を重ねていく状況は一番大変でした。
――特に大変だったところはどのあたりですか?
チームのシステムや戦術の理解を深めていく点は特に苦労させられました。同じチームなので、目指すところは同じですが、それぞれのポジションによって役割は明確に変わってきますから。
スクラムハーフとスタンドオフは連携するポジションではありますが、自分がどのポジションで起用されるのかを考えながらチームの決まり事を理解していかないと、混乱してしまいますし、結果としてチームに迷惑をかけてしまうことにもなる。そして、試合で「行くぞ!」と言われた時に、自分がどちらのポジションで試合に出場するのかを理解して、しっかりと頭を切り替えなければならない。まるで2つタスクを持って、それぞれの準備をしなければならないような状態でした。
――直前まで起用されるポジションがわからなくても、試合に出たら自然と身体は動くものなのでしょうか?
グラウンドに入れば、有無を言わさずやらなきゃいけないので。
例えばスクラムハーフのパスとスタンドオフのパスは、タイプが全く異なります。それでもそれぞれのポジションに求められる役割をきちんと果たさなければならない。それぞれのポジションを切り替えて試合に臨むことが、もしかしたら一番大変だったかもしれません。
撮影/松川李香(ヒゲ企画)
――スクラムハーフ経験されて、ご自身のプレースタイルに変化はありましたか?
僕がスタンドオフとしてプレーしている時に、スクラムハーフの選手が言いたいことをある程度は理解できるようになりました。
スタンドオフはスクラムハーフからパスをもらいますから、スタンドオフとしてパスを要求するタイミングであったり、声量や指示の的確さといった点においても、スクラムハーフの選手たちの気持ちがわかるようになりましたし、僕のプレーの質も磨かれたんじゃないかと思っています。
でも、スクラムハーフとスタンドオフは全く異なる専門職ですから、二足のわらじを履くのは本当に難しかったですね。
――スタンドオフとスクラムハーフの二刀流をこなされる岸岡選手は、とても器用な選手であるように感じました。
どうなんですかね。(苦笑)
少し経験したことがあるからかもしれませんし、クボタは攻撃力の優れたフォワードを起点としたラグビーをしていますから、それに便乗できるポジショニングが取れることも大きかったのかもしれません。
撮影/松川李香(ヒゲ企画)
――まもなく新シーズンが開幕しますが、今季どんな活躍ができそうですか?
今シーズン始まった時に、「今シーズンはスタンドオフ一本で行こう」とHCと話し合いました。
昨シーズンは「試合に出られて、スクラムハーフとしても次第点を出せた」こと。そしてスタンドオフとして逆転勝ちに貢献できた試合がありましたから、その辺りについては良かったと思います。
ですが、昨シーズンの結果を見るとチームの順位は(優勝から6位と)ガクッと下がったので、そこはすごく難しい。
正直に言って、自分のモチベーションとチームのモチベーションが比例していない場面も昨シーズンはありましたから。
自分が良いパフォーマンスを発揮できたとしても、チームが勝たなければあまり意味がありません。スタンドオフとしては自分の仕事ができなかったという責任も感じています。自分のパフォーマンスをさらに上げていくことも大切ですが、今シーズンはそれをチームの勝利にも結びつけていきたいですね。